2009年07月22日更新
マンハッタンの高級住宅に見る アートとインテリアの関係
欧米の雑誌などで、アートとインテリアが素敵に調和している事例を見てみると、必ずしも有名な作家のアートばかりではないことに気づきます。資産的価値より美的価値を優先して選んだと思われる様々なアートの、壁への配し方、家具との調和、生活との馴染み方は素晴らしく、いつも私の興味をかきたてます。
こういったアートを誰がどこで選ぶの?なぜそんなにアートに造詣が深くて、センスのいい人ばかりなの?と、普段気になっていながらもなかなか掘り下げるための情報がないこれらの問題について、今回は建築家の各務謙司(カガミケンジ)さんにお聞きしました。
――各務さんはハーバードの大学院で学んだ後、ニューヨークの建築事務所に勤務されました。セレブ御用達ともいえるイタリア系建築家の事務所で、ブランド会社社長やアーティストの高級アパート・リノベーション、ハンプトンの別荘などプロジェクトに携わっていらっしゃいました。ご自身もアートがお好きだという各務さん。そういったセレブの住まいにおいて、アートとはどのようなものだったのでしょう?
「空間にアートが加わると、その魅力が何倍にも膨らむことは、これまでの経験から習ってきました。NYで設計に携わったお宅でもたくさんのアートを見る機会があって、中にはとても有名で高額なものがさらっと飾ってあって、驚いたこともしばしばです」
――そうですか!是非お聞きしたいです。
そもそも、セレブたちの自邸のアートはどういう経緯で選ばれるのでしょう?
「NYでは建築家と同様に、インテリアデザイナーやアートコーディネーターの意見が求められます。ただ家具を選ぶだけでなく、アートやファブリック、時には石けんやタオルまで、スタイルにかなうものが吟味されていきます」
――専門家の功績が大きいのですか?
「もちろんアートが好きで詳しい施主もいますし、施主の好みも反映されます。しかし、お客様を家に招くのが主となるNYの社交文化の中では、社会的な地位が上がれば、まず住まいに投資するのが一般的です。居住エリア、建物、家具、調度などの全てが、その人とその家族の社会的な位置づけに関わるのだという認識があるのですね。そういった意味では、住まいをデザインする建築家やインテリアデザイナーは、クライアントにとって 「社会関係における資本」 となりえるようなライフスタイルを構築する、重要なコンサルタントの役割を担っていると言えるのです」
――どうりで計算しつくされた美しさ!作品と空間の調和が素晴らしくて、住み手の個人的な趣味だけで構成されたとは思えませんでした。プライベートな空間でありながら、客観性を持って吟味されつくした感が見て取れるのは、そういった専門家の意見があるからなのですね。それにしてもアートを飾る場所がたくさんあるのがうらやましい限りです。とても大きなアートが飾られて、印象的なお宅が多いですね。おうちが大きいということもあると思いますが、壁面が多いですよね?
「やたらと窓をとる、ということはあまりしませんね。大きな窓がたくさんあって日差しがふんだんに入るより、アートやその他の調度品を飾る壁面が多いほうが、成功した方々には好まれます。建物のデザインにしても、ガラス張りの現代的な建築は美術館くらいで、住まいとしては好まれないのです。最新流行のデザインの新しい建物より、飽きがこない歴史を重ねてきたものや正統的なデザインを大切にする嗜好が強いようです。富裕層のインテリアでは家具調度品はクラッシカルなスタイルで質の良いアンティークとモダンデザインの真新しい家具がミックスされることが多いようです。 しかし、そこに飾られるアートは、コンテンポラリーが主流です。戦後、コンテンポラリーアートでNYが世界の中心となったことは、やはり人々にとって誇りなのだと思います」
――歴史ある建物に新旧取り混ぜた家具、そこにコンテンポラリーアート。歴史と伝統と文化が全て融合するような空間ですね。「衣」「食」は整っても「住」は遅れて、と常々言われる日本ですが、何より専門家に任せる人が少ないのは、「家に人を招く」という社交のスタイルが定着しないことによるのでしょう。そしてそれはアメリカのように、社交で得られる人間関係が資産として還元を生む、という社会環境でないからだということができるのかもしれません。文化的な住まいを構築することや正統文化を継承していくにしても、私たちはあくまで住まいに関しては主観的で、自分たちの心の楽しみにさえなっていればいいと考えます。それはそれで素敵なことです・・・がアメリカのようにバンバン絵が売れる社会は遠いのかもしれません(泣)。
多くの示唆を与えていただきました。各務さんありがとうございました。
各務さんの手がけられた白金台のK邸にて。NY時代のご実績など、アートがふんだんに飾られたお宅の写真を見せていただきました。
カガミ建築計画 Kenji KAGAMI Architects
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