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家の時間 連載 VOL11

2009年04月29日更新

古いものへの審美観 フランス人はどこで家具を買うのか

5年前に家を新築した折、玄関のかまちに4cmくらいの傷がありました。
完成検査でそれを発見した業者は(私が何も言わないうちに)修繕に来て、
丸1日かけて、修復を試みていました。

私は内心「どうでもいいのに・・」と思いながらも、
きっと小さな傷や汚れでも、すっごいクレームになることがあるから
神経質にならざるを得ないのね、と気の毒に感じていました。

日本では無傷の新品がベスト。New is good信仰は根強いですよね。
昨今では古いマンションの味わいを生かしたリノベーションも盛んですし、
アンティークの家具も一般的になりましたが、
それでもやはり「新築・未入居」は不動産販売では有効な宣伝要素になりますし、
古い家具を受け継いで使う習慣が根付きません。

20年ほど遡った大学時代、住まいを探していたイギリス人の先生が
「イギリスでは、Old is good です」といったことが、
当時の私には少々意外に感じられたことを思い出します。
そのころは、古いマンションは安く、新しいマンションは高い賃料で
昨今のヴィンテージマンションというような、年月を経ても価値を保つ物件の存在は
あまり注目されていませんでした。

フランスの社会学者ピエール・ブルデューの著書には
出身階級別の文化的慣習行動の差異について、多くの多角的な調査結果があります。
その中に、出身階級や学歴別に「どこで家具を買うのか」をリサーチした、
インテリア業界人にとって興味深い内容がありますので、拾ってみます。

・高校卒業の庶民・中間階級出身では
家具専門店 36・5% 競売場32・0% デパート13.5% 蚤の市4.5% 骨董店4.5%


・グランド・ゼコール卒業の上流階級では
家具専門店 29.0% 競売場13.0% デパート18.0% 蚤の市8.0% 骨董店60.5%


となっています(*)。
ほぉ~、高学歴の上流階級出身者は骨董店で家具を買うのね~!
TVや雑誌で見たことのある、フランスの文化人のお宅なんぞを思い起こしてみれば、
確かにそうかもね。と妙に納得してしまいました。
歴史ある住まいのほうが、価格が高いのはわかりますが、家具もしかり、なのですね。
家具屋さんで買ったばかりの新品の家具があったら違和感ありそうな気さえします。

そう考えると日本の場合、古い家具や道具類への好みは単に個々人の趣味であって
あまり出身や学歴など、その人の背景との直接の関係を想像されたりはしません。
家具はライフスタイルとしてその人の、他との卓越化手段とは認識されていないのですね。まだまだ消耗品の域を出ないのかもしれません。

アートにかかわっていて気づくのは、
錆びた鉄、朽ちた木、ペンキのはがれなど
古いものの上に起こっている美しい作用、そのものを切り取ってみせる
というアーティストが(工芸の作家を含め)日本に多いし、
それを鑑賞して価値を感じる人も多いうことです。
手を加えない、自然にあるがままの美しさを愛でる、日本的な美意識によるのでしょう。

古いものを美しいと感じる審美観は持っていながらも、
そういった美意識を大切にすることへの社会的な評価は高くない。
むしろ新しい流行を使いこなすセンスのほうが高く評価される。
ここに、New is good信仰が戦後からずっと変わらない原因があるのかもしれません。

*ピエール・ブルデュー 『ディスタンクシオン』 1990 藤原書房 123項


写真キャプション

(上2点)錆びた鉄や、はがれたペンキなど、古いものに現れている美しさを切り取るように見せる作品は、現代アートのジャンルにも多く見られます。
錆びた鉄板を重ねたり古い窓をモチーフにした仲田智の作品

(中2点)まるで何かの破片のような、木彫作品「欠片」と、古い本のページをコラージュした平面作品はいずれも前川秀樹によるもの

(下2点)古い工具のような形をした森田春菜の陶器作品
ギャラリーオーナー
新井沙絵

('09 09/09)